
2040年までの越境水資源の展望
アフリカの越境水資源は、不均一に分布しているとはいえ、適切に利用・開発されれば、食料及びエネルギーの生産、そして貧困削減に貢献する可能性を秘めている。だが地域協力の進展がなければ、水需要の増大に伴い、アフリカ大陸の多くの地域で、水資源をめぐる緊張が高まり、水不足が生じるだろう。
アフリカにおける域内再生可能水資源(IRWR、河川の年間流量の長期的平均及び域内の降水量により生じる帯水層再生分)の合計は、全体として年間3,931立方キロメートルと推定されている。アフリカは世界のIRWRの9.2%を占めており、これに対しアジア及び南米はそれぞれ28%、29.1%である。アフリカのIRWRは地表水(年間3,800立方キロメートル以上)、地下水(年間約1,400立方キロメートル)のあいだで配分されており、年間約1300立方キロメートル以上が重複している。
アフリカにおける水需要は2040年までに大幅に増大すると予想されており、最大の消費者は灌漑農業である。アフリカの大半は豊富な水資源を有しているが、家庭、農業、工業の各部門による水需要は、大陸規模で、利用可能な水資源に追いつきつつある。
アフリカの盆地地域の一部では、利用管理及び効率が改善されない限り、近いうちに利用可能な水資源を需要が上回ってしまう。需要が資源を圧迫するなかで、水利用部門と環境のあいだの対立が激しくなる可能性が高い。アフリカの人口が増大するにつれ(今から2040年までに約2倍になると推定される)、食料(特に小麦、トウモロコシ、米といった穀物)に対する需要もやはり2倍になる。この需要に対応するには、灌漑農業の拡大の成功、天水農業における慣行の改善、穀物輸入の増大が必要である。
しかし現時点では、世界のあらゆる地域のなかで、アフリカの灌漑農業は最低の水準にある。大規模な灌漑計画を成功させるには、(たとえば新たな水力発電所ダム内で)貯水量を増大させる必要がある。PIDAスタディでは、10カ所の湖沼及び河川流域(チャド湖、コンゴ、ガンビア-ゲバ-コリバ(Gan-bia-Geba-Koliba)、ニジェール、ナイル、オカヴァンゴ、オレンジ-センク、セネガル、ヴォルタ、ザンベジ)及び3カ所の地下水系(ヌビア砂岩帯水層系、北西サハラ帯水層系、イルメデン※(Illume-den)帯水層系)に注目している。ここで選ばれた流域は、ほとんどのアフリカ諸国をまたいでおり、アフリカの土地の51.5%、アフリカにおける国際流域の総面積の80%に相当している。
1 大陸レベルでの灌漑、取水、水需要
PIDAで選択された流域のうち、現時点で灌漑設備が整備されている面積は約620万ヘクタールであり、これらの流域における推定ポテンシャルの20%前後に相当する。
アフリカにおける農業生産(灌漑、天水双方)の拡張に関して最大の課題は、生産効率の低さである。したがって、2040年に向けた食料生産目標を達成するには、生産に供される面積を増やすことに加え、生産効率の改善に対する相当の投資が必要である。
ここで報告する水需要は、今後30年間の人口増加率及び灌漑拡大の程度によって変わってくるだろう2。こうした変動が、アフリカ大陸についてさまざまなシナリオが存在する理由である。現実の農業用の取水量は、経済・技術・気候・政治といった一連の選択及び要因によって変わるものであり、推定は困難である。だが、灌漑農業の発展に関する4つのモデル化シナリオを見れば、将来的な灌漑用取水量の予想される規模について優れた示唆が得られる。
上限のシナリオ(食料需要増大の100%を灌漑拡大により対応する)を除くすべてのシナリオでは、食料生産と需要のギャップを、天水農業及び他国からの輸入により埋めることになる。2005年の時点で、アフリカにおける穀物消費(生産+輸入-輸出)は1億9,200万トンであり、そのうち3,400万トンが灌漑農業により生産されていた。その差が、天水農業(1億800万トン)及び純輸入(5,000万トン)により提供されていた。
2040年までに、「対策を行わないケース(busi-ness-as-usual)」の灌漑発展シナリオに基づき、人口増加が中程度だと仮定すると、穀物需要約3億1900万トンに対し、灌漑農業による穀物生産は約6700万トンとなるだろう。結果として、2億5200万トンの穀物を天水農業及び輸入によって提供しなければならない。
食料生産を強化するには、農業生産性を上昇させ、天水農業と灌漑農業の適切なバランスを見出し、特に有利な場合には灌漑面積を拡大し、灌漑効率を改善し(たとえば点滴灌漑の利用)、水不足となっている河川流域の収穫量を増大し、流域間の水移転の可能性を探ることが必要となろう。
2 水ストレス:水の正味需要と利用可能な水資源のギャップ
灌漑開発シナリオのもとでは、ナイル川流域の残存水量(現在、年間約3立方キロメートル)はゼロにまで落ち込むことになる。この流域の水資源はすでにほぼ完全に利用されているからである(図5.1左)3。2040年の時点で、PIDA対象のその他の流域における利用水準は、低いところではコンゴ川の0.8%からヴォルタ川及びザンベジ川の20%までさまざまである(図5.1右)。
将来の水需要が急速に利用可能な資源を上回る可能性が高い河川流域はナイル川流域だけだが、その他いくつかの河川流域でも、環境にダメージを与えることなく予想される需要に対応することが困難となり、十分な情報に基づいた政治的判断が必要になってくる。
現時点で、アフリカ大陸の約半分では何らかの水ストレス・水不足に直面している(図5.2)。この状況は2040年には大幅に深刻化していると予想される。その頃までには、1人あたりIRWRが十分と考えられる地域はコンゴ川流域及び西ギニア湾地域のみになるからだ。2005年に水資源に脆弱性のあった国の中には、2040年には水ストレス又は水不足に陥る国もでるだろう。国際河川流域を共有する大半の国(コンゴを除く)は、2040年には深刻な水不足に直面する恐れがある。

3 水力発電の限界
アフリカのダムの大半は、主に水力発電(次いで灌漑用水)を目的として建設されている。しかし、約15,800メガワットの設備容量をもって、PIDAが対象とする10ヶ所の水域における水力発電の推定ポテンシャルのうち有効利用されているのは僅か8.4パーセントである。その84%は4つの河川流域に集中している(ナイル川、ザンベジ川、ニジェール川、ヴォルタ川)。推定ポテンシャル(現在開発されていないもの)の大半もこれらの流域にあり、それ以外のPIDA対象水域に存在するのは推定ポテンシャルのごく一部である。
導入済み水力発電容量について述べた状況と同様に、現時点で既存の貯水容量の大半も、少数の流域に集中している。PIDA対象水域の総貯水容量は6,700億立方メートルだが、そのうち3分の2は、カリバ、カボラバッサ(双方ともザンベジ川流域)、アコソンボ(ヴォルタ川流域)、ハイ・アスワン(ナイル川流域)の各ダムである。(年間の総流去水が比較的少ないことを考えれば)絶対量としては比較的小さな貯水量だが、オレンジ-センク川流域は注目に値する。というのは、同流域には大規模ダムが複数あり、国際的な流域間水移転も世界最大で、世界で最も開発が進んだ河川流域の一つだからである。
PIDAスタディの計画モデルでは、2040年までには選択した流域において新規に72,500メガワットが稼働しているはずであり、その3分の2はコンゴ川領域である。だが、この大幅な水力発電の拡大が実現しても、導入済み発電容量(2040年の時点で約694ギガワット)に占める水力発電の比率は20%以下になるだろう。選択した流域における水力発電のポテンシャルがフルに開発されたとしても(社会的・環境的な懸念から政情不安及びそれに関連する投資の安全性の不足に至るまでさまざまな理由によりその可能性は低いが)、水力発電は需要予想の35.1%を満たすだけだろう。

4 河川・湖沼の輸送インフラ
アフリカにおける主要な地域内陸水路は、ナイル川、コンゴ川、ニジェール川、セネガル川、ザンベジ川下流という5つの河川と、ヴィクトリア湖、タンガニカ湖、マラウイ湖という3つの湖に限られている。現在、河川・湖沼による輸送は、実質的に、沿岸に暮らす人々のためのみに行われており、河川・湖沼を用いた長距離輸送は事実上完全に消滅してしまった。その主な理由は、河川・湖沼が航行・輸送を目的とした適切な保守管理を受けていないからである。浚渫は行われず、航行システムはきちんと保守されておらず、船舶は古く非常に状態が悪い。
出典:アフリカ・インフラ開発プログラム(PIDA)