
第4章 東日本大震災・原発事故からの復興・再生に向けた取組
2011年3月11日、マグニチュード9.0という日本周辺での観測史上最大の地震が発生しました。
この地震により引き起こされた津波によって、東北地方の太平洋沿岸を中心に広範かつ甚大な被害が生じるとともに、東京電力福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)の事故によって大量の放射性物質が環境中に放出されました。また、福島第一原発周辺に暮らす多くの方々が避難生活を余儀なくされました。
環境省ではこれまで、除染や中間貯蔵施設の整備、特定廃棄物の処理、帰還困難区域における特定復興再生拠点区域の整備等、被災地の復興・再生に向けた事業を続けてきました(図4-1-1)。

放射性物質汚染からの環境回復の状況については、2021年10月時点の福島第一原発から80km圏内の航空機モニタリングによる地表面から1mの高さの空間線量率の平均が、2011年11月時点と比べて約80%減少しています(図4-1-2)。

また、福島県及び周辺地域において環境省が実施しているモニタリングでは、河川、沿岸域の水質及び地下水からは近年放射性セシウムは検出されておらず、同地域の湖沼の水質については2020年度は163地点のうち2地点のみの検出となっています。
他方、復興に向けては未だ道半ばであり、取り組むべき課題は残っています。引き続き、福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた取組を始め、環境再生の取組を着実に進めるとともに、脱炭素・資源循環・自然共生といった環境の視点から地域の強みを創造・再発見する未来志向の取組を推進していきます。
第4章では、主に帰還困難区域の復興・再生に向けた取組、福島県内除去土壌等の最終処分に向けた取組、復興の新たなステージに向けた未来志向の取組、ALPS(アルプス)処理水に係る海域モニタリング、リスクコミュニケーションの取組を概観します。
第1節 帰還困難区域の復興・再生に向けた取組
福島第一原発の事故後、原発の周辺約20~30kmが警戒区域又は計画的避難区域として避難指示の対象となりました。避難指示区域は、2012年4月以降、空間線量率等に応じて、三つの区域(避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域)に再編され、このうち、避難指示解除準備区域及び居住制限区域では、順次、除染などの事業が進められ、2017年3月までに面的な除染が完了し、2020年3月までには全域で避難指示が解除されました。帰還困難区域については、将来にわたって居住を制限することを原則とする区域とされ、立入が厳しく制限されてきましたが、空間線量率が低減してきたこと等を受けて、2017年に福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)が改正され、帰還困難区域内に特定復興再生拠点を設定し、除染や避難指示解除を進められるようにする制度が整えられました。
そして環境省では、2017年12月から特定復興再生拠点区域の除染や家屋等の解体を進めてきました。2022年2月末時点の特定復興再生拠点区域における除染の進捗率は9割を超えており、また、家屋等の解体の進捗率(申請受付件数比)は約83%です(図4-1-3)。

これらの取組の進展を受けて、2020年3月、双葉町、大熊町、富岡町では、JR常磐線の再開に合わせ、駅周辺で避難指示が先行解除されました。また、葛尾村、大熊町、双葉町の特定復興再生拠点区域では、それぞれ2021年11月30日、同年12月3日、2022年1月20日より準備宿泊が開始されました。これら3町村の特定復興再生拠点区域については今春以降の避難指示解除を目指しています。また、浪江町、富岡町、飯舘村においては2023年春の特定復興再生拠点区域の避難指示解除を目指して、除染等事業が進められています(図4-1-4)。さらに、特定復興再生拠点区域外の地域についても、2021年8月に「特定復興再生拠点区域外への帰還・居住に向けた避難指示解除に関する考え方」が原子力災害対策本部・復興推進会議で決定され、拠点区域外の住民の帰還に関する意向を個別に丁寧に把握した上で、帰還に必要な箇所を除染することとされています。

事例:特定復興再生拠点区域での準備宿泊が始まりました
帰還困難区域を抱える自治体のうち、2022年春以降に特定復興再生拠点区域の避難指示解除を目指してている3町村では、ふるさとでの生活を円滑に再開するための準備として、準備宿泊がそれぞれ開始されました。
葛尾村では2021年11月30日から、大熊町では12月3日から、双葉町では2022年1月20日から、希望する方々が自宅などで夜も寝泊まりすることができるようになりました。これは、特定復興再生拠点区域内の除染などが実施されたことにより、避難指示解除の目途が立ったことで可能となったものです。
対象エリアでは、インフラの整備等を優先的に進め、準備宿泊から本格的帰還が可能となることを目指して、一歩一歩着実に復興への歩みを進めています。また、帰還困難区域のうち特定復興再生拠点区域外については、2020年代をかけて、希望される方が帰還することができるよう、除染をしていく方針を国は示しています。
ふるさとへの帰還を希望されるより多くの住民のみなさまの生活再建を目指して、更なる取組を進めていきます。
第2節 福島県内除去土壌等の最終処分に向けた取組
福島県内での除染により発生した除去土壌等については、中間貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずることとされています。県外最終処分の実現に向けては、最終処分量の低減を図ることが重要であるため、県外最終処分に向けた取組に関する中長期的な方針として、2016年4月に「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略」及び「工程表」を取りまとめ、2019年3月に見直しを行いました(図4-2-1)。また、2016年6月には、除去土壌の再生利用を段階的に進めるための指針として、「再生資材化した除去土壌の安全な利用に係る基本的考え方について」を取りまとめました。

これらに沿って、福島県南相馬市小高区東部仮置場及び飯舘村長泥地区において、除去土壌を再生資材化し、盛土の造成等を行うといった再生利用の安全性を確認する実証事業を実施してきました。これまでに実証事業で得られた結果からは、空間線量率等の上昇が見られず、盛土の浸透水の放射能濃度は検出下限値未満となっています(なお、南相馬市の実証事業については、2021年9月に盛土を撤去済み)。
飯舘村長泥地区における実証事業では、野菜、花き類、資源作物等の栽培実験を行っています。2021年度に栽培した野菜の放射性セシウム濃度の測定結果は、検出下限値未満とされ得る値となっています(厚生労働省の定める食品中の放射性セシウム検査法では、検出下限値は20ベクレル/kg以下とされています。検出されるまで測定した結果、2021年度に栽培した野菜の放射能濃度は、0.1~2.5ベクレル/kgとなっており、一般食品の放射性物質の基準値である100ベクレル/kgよりも十分低い値となっています)。また、2021年度は農地造成のための盛土工事に着手するとともに、水田に求められる機能を確認するための水田試験を実施しました。
減容・再生利用技術の開発に関しては、2021年度も、大熊町の中間貯蔵施設内に整備している技術実証フィールドにおいて、中間貯蔵施設内の除去土壌等も活用した技術実証を行いました。また、双葉町の中間貯蔵施設内において、仮設灰処理施設で生じる飛灰の洗浄技術・安定化技術に関する技術実証を実施するため、必要な準備・検討を行ったところです。
また、福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向け、減容・再生利用の必要性・安全性等に関する全国での理解醸成活動の取組の一つとして、2021年度から、全国各地で対話フォーラムを開催しており、第1回・第2回をそれぞれオンライン配信で5月と9月に開催し、第3回は名古屋市内で12月、第4回は福岡市内で2022年3月に開催しました。当日の参加者は、山口壯環境大臣を始め、有識者や若者世代と福島の除去土壌などに関する課題や今後について議論を交わしました。
さらに、2021年7月以降、一般の方向けに飯舘村長泥地区の現地見学会を開催しています。このほか、大学生等への環境再生事業に関する講義、現地見学会等を実施するなど、次世代に対する理解醸成活動も実施しました。
また、中間貯蔵施設に搬入して分別した土壌の表面を土で覆い、観葉植物を植えた鉢植えを、2020年3月より環境省本省内の環境大臣等の部屋に設置しています。鉢植えを設置した前後の大臣室の空間線量率はいずれも0.06マイクロシーベルト/hで変化はなく、設置以来週に1回実施している放射線のモニタリングでも、鉢植えの設置前後の空間線量率に変化は見られていません。2021年7月には、更なる理解醸成を図るため、総理官邸や復興庁等にも鉢植えを設置し、同年12月からは新宿御苑や地方環境事務所等の環境省関連施設にも設置しています。また、2022年3月には、除去土壌を用いたプランターを中央合同庁舎5号館の正面入口に設置しました。今後とも、除去土壌の再生利用の推進に関する理解醸成の取組を進めていきます。
第3節 復興の新たなステージに向けた未来志向の取組
環境省では、福島県内のニーズに応え、環境再生の取組のみならず、脱炭素、資源循環、自然共生といった環境の視点から地域の強みを創造・再発見する「福島再生・未来志向プロジェクト」を推進しています。本プロジェクトでは、2020年8月に福島県と締結した「福島の復興に向けた未来志向の環境施策推進に関する連携協力協定」も踏まえ、福島県や関係自治体と連携しつつ、脱炭素・風評対策・風化対策の3つの視点から施策を進めていくこととしています。
脱炭素に向けた施策としては、環境、エネルギー、リサイクル分野での新たな産業の定着を目指した実現可能性調査を2018年度から継続して実施し、2021年度は地域のグリーン水素や再生可能エネルギーの地域利用の可能性調査や、営農型太陽光発電システムの構築に係る調査、脱炭素ツーリズムに係る調査など8件の調査を採択しました。さらに、2021年度から、福島での自立・分散型エネルギーシステム導入に関して「調査」「計画」「整備」の各段階で重点的な財政的支援を「脱炭素×復興まちづくり」推進事業として開始しており、2021年度は、計画策定補助が2件、設備導入補助が10件採択されました。
また、福島に対する風評払拭や環境先進地へのリブランディングにつなげるため、2021年度から福島において未来に向けてチャレンジする姿を発信する、「FUKUSHIMA NEXT」表彰制度を設けました(図4-3-1)。審査の結果、環境大臣賞に3人(組)、福島県知事賞に3人(組)が選ばれ、今後、環境省では、様々なメディアを通じてこれらの優れた取組を発信していくこととしています。また、福島の復興と脱炭素の先進地域を目指す取組を世界に発信することを目的に、COP26にてセミナーとブース展示を実施しました。
加えて、福島・環境再生の記憶の継承・風化対策として、未来を担う若い方々と一緒になって福島の未来を考えることを目的に「いっしょに考える『福島、その先の環境へ。』チャレンジ・アワード」という表彰制度を2020年度から引き続き実施しました。
さらに、2019年4月に福島県と共同策定した「ふくしまグリーン復興構想」を踏まえ、2021年7月に磐梯朝日国立公園満喫プロジェクト推進に向けた地域協議会を立ち上げるなど、国立公園等の魅力向上に関する取組を進めています。
2021年12月には、福島の復興まちづくりと脱炭素社会の実現を目指す「令和3年度福島再生・未来志向シンポジウム~福島の復興と脱炭素社会の実現に向かって~」を実施し、3月には「福島、その先の環境へ。」シンポジウムを実施しました。引き続き、福島県との連携をより一層強化しながら、未来志向の環境施策を推進していきます。
事例:国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)にて福島の復興の取組を発信
2021年10月から11月に英国・グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において、福島第一原発事故からの復興と脱炭素先進地域を目指す福島の取組を世界に発信することを目的として、COP26の会場に併設したジャパン・パビリオンにてブースを出展するとともに、11月10日に「あれから10年。福島、その先の環境へ。」と題したセミナーを開催しました。
ブースの出展では、復興が進む福島の現状に関して正確な情報をわかりやすく伝えるため、震災からの復興のあゆみと未来に向けた取組を紹介する動画を放映するとともに、福島を紹介する特設サイトが閲覧できるタブレット、特産品などを展示しました。ブースには年代や性別を問わず、世界各国から多くの方が訪れました。
また、セミナーでは、2050年のカーボンニュートラルを目指す福島県、大熊町、浪江町とも連携し、各首長と山口壯環境大臣のビデオメッセージや、各地方公共団体における脱炭素に向けた取組と、復興まちづくりに向けた取組を紹介しました。会場では、セミナー開始前に用意した席が満席となり、1階の同時配信モニター前で立ち見をする方もいるなど、福島の現状に対する関心の高さが伺えました。
環境省では、福島の現状に対する正しい理解の促進を図るため、今後も地方公共団体と連携して国際的な発信に取り組んでいきます。
第4節 ALPS(アルプス)処理水に係る海域モニタリング
2021年4月、廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議において、多核種除去設備等処理水(以下「ALPS(アルプス)処理水」という。)の処分について、2年後を目途に、国内の規制基準を厳格に遵守することを前提に、ALPS(アルプス)処理水を海洋放出するとの基本方針が決定されました。
上記基本方針においては、ALPS(アルプス)処理水の海洋放出に当たり、トリチウム以外の放射性物質が規制基準を確実に下回るまで浄化されていることを確認した上で、取り除くことの難しいトリチウムの濃度は、海水で大幅に希釈することにより、規制基準を厳格に遵守することとしています。また、ALPS(アルプス)処理水の放出前からトリチウムに関する海域モニタリングを強化・拡充し、その際、国際原子力機関(IAEA)の協力を得て分析機関間比較を行って分析能力の信頼性を確保することなどにより、客観性・透明性を最大限高めることとしています。
基本方針を踏まえ、2022年3月に政府の「総合モニタリング計画」を改定し、2022年度から放出前の海域モニタリングを開始する予定です。
第5節 リスクコミュニケーションの取組
1 放射線健康影響に係るリスクコミュニケーションの推進
2017年12月に取りまとめられた「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」(復興庁事務局)に基づき、福島県いわき市に設置した「放射線リスクコミュニケーション相談員支援センター」が中心となり、福島県内における放射線不安対策として、住民からの相談に対応する相談員、地方公共団体職員等への研修や専門家派遣等の技術支援を行っています。加えて、帰還した又は帰還を検討している住民を対象に、帰還後の生活の中で生じる放射線への不安・疑問について、車座意見交換会等を通じたリスクコミュニケーションを実施しています。また、福島県外においても、各地方公共団体や教育機関の要望に応じた研修会やセミナーを開催しています。
東京電力福島第一原子力発電所の事故後の健康影響について、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)では「放射線被ばくが直接の原因となるような将来的な健康影響は見られそうにない」と評価しています。また福島県「県民健康調査」検討委員会においては、「現時点において本格検査(2回目検査)に発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない」と評価しています。(甲状腺検査は各対象者に原則2年に1回実施しており、本格検査(検査2回目)は、2014~2015年度に実施された検査です。)
このような放射線の健康影響に係る正しい科学的知見が届かないことにより、不安や風評が生じ、これが差別偏見につながっていくおそれがあります。このことを背景に、「学び・知をつむ“ぐ”」、「人・町・組織をつな“ぐ”」、「自分ごととしてつたわ“る”」ことにより、風評にまどわされない適正な判断力を養っていく「ぐぐるプロジェクト」を2021年7月に立ち上げ、放射線健康影響に関する正確な情報を全国に分かりやすく発信する取組を推進しています(図4-5-1)。

2 環境再生事業に関連する放射線リスクコミュニケーション
除染や中間貯蔵施設の整備、特定廃棄物の処理、帰還困難区域における特定復興再生拠点区域の整備等の復興・再生に向けた事業を進めると同時に、放射線や地域の環境再生への取組などについてわかりやすく情報を提供しています。また、環境再生プラザやリプルンふくしま、中間貯蔵工事情報センターを主な拠点とし、環境再生事業に関連する放射線リスクコミュニケーションに係る取組を実施しています。さらに、高い専門性や豊富な経験を持つ専門家の、市町村や町内会、学校などへの派遣、Web等を活用した除染・放射線学習をサポートする教材の配布を実施しています。
2021年度は、放射線に係るリスクコミュニケーションとして、専門家派遣を86回実施しました。
3 ALPS(アルプス)処理水に係る風評対策
ALPS(アルプス)処理水に係る風評対策のために、原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース(復興庁事務局)において「ALPS(アルプス)処理水に係る理解醸成に向けた情報発信等施策パッケージ」を取りまとめ、政府一丸となった取組を進めています。
この一環として、風評影響の抑制のため、海域モニタリングの結果について広く情報を発信します。
また、放射線に関する科学的知見や関係省庁等の取組等を横断的に集約した統一的な基礎資料に、ALPS(アルプス)処理水に関する情報を記載しました。
さらに、福島県内・外の車座意見交換会やセミナー等の場において、ALPS(アルプス)処理水に関する説明を行っています。
出典:環境省